東札幌病院 ボランティアいずみ
地下鉄東西線・東札幌駅から雪と氷で覆われた道を東に徒歩約5分。入口の自動ドアが開いたとたんに大きな植物のオブジェが目に飛び込んできます。東札幌病院の院内は冬でも花や緑がいっぱいです。「医療の本質はやさしさにある」という東札幌病院の理念に則って活動するボランティア「いずみ」の活動が、院内を緑豊かな空間にしています。ボランティアコーディネーターの白石典子さんにお話をうかがいました。 (文責:都築仁美)
「いずみ」の園芸活動
1983年4月に開院した東札幌病院は、ホスピス・ケアで全国的に知られています。この病院の特色の一つが、開院と同時に発足したボランティア組織「いずみ」です。チームアプローチを必要とするホスピス・ケアでは、ボランティアも医療チームの一員です。ボランティアの存在が、患者と地域住民の交流を促し、地域に開かれた医療づくりにつながります。
現在「いずみ」で活動するボランティアは60名。ボランティアコーディネーターとボランティアとで構成する運営委員会が活動をけん引しています。ボランティアの年代は10?80代と幅広く、活動内容も全部で25種類と多岐に渡ります。園芸活動はその一つ。暖かい季節には病院の周りの花壇が花でいっぱいになります。冬の間も、院内のあちこちに鉢植えの花や木が飾られており、屋上には「ソルガーデン」というさまざまな植物であふれる空間もあります。
15年ほど前に病院の資金で作られた「ソルガーデン」は、白石さんが8年前にボランティアの一人として東札幌病院に来た頃は、手入れが行き届かず瀕死の状態でした。植物の手入れには、盆も正月もありません。運営委員会では、日常的な手入れをするために、新たにボランティアを募ることにしました。いまでは病院の近所の人たちも水やりを手伝ってくれるようになりました。
現在「ソルガーデン」には、園芸活動をしている5人のボランティアにも把握しきれないくらいの多様な植物が植えられています。なかには病院で人生を終えた患者さんのご遺族が、ボランティアの方々に感謝の気持ちを込めて贈った鉢植えもあります。想い出がつまり、一つ一つ手入れの仕方が違うそれらの植物を、水をやったり、花がらをとったり、ボランティアの人たちが丹念に世話しています。
「植物園には立派な植物がいっぱいあるけれど、ここは手づくりでゆったりリラックスできる雰囲気なのが自慢」と白石さん。病院の患者さんたちも「まるで家にいるみたい」と喜んでいるそうです。
「いずみ」のボランティア活動
院内を歩いていると、植物以外にもたくさんのものが目に入ります。たとえば、手作りのハワイアンキルトやパッチワークのクッション、紙粘土で拵えた雪だるまなど時候にあわせた飾り物、壁にずらりと並んだハガキサイズの額入りの絵画などです。ボランティアたちの手によるものもあれば、患者さんがつくったものもあります。ボランティア活動が生み出した成果です。
これらさまざまな活動は、「いずみ」のボランティア自らが患者さんたちのニーズに基づいて発案し、実行します。映画上映会のような楽しいイベントもあれば、リフレクソロジーや茶話会、晩酌の会まであります。「あれはダメ、これもダメと言わないのが方針」と白石さん。ボランティアを信頼し、自発性を尊重しています。
活動の中には「おしも布」づくりという大切だけれど目立たない活動もあります。「おしも布」というのは排泄の後始末をする布で、患者さんにとっても、ケアする側にとっても欠かせないものです。治療の影響で髪が抜けてしまった人たちのために、帽子をつくるボランティアもいます。院内にあるボランティアルームのたんすの引き出しには、さまざまな素材や色彩の帽子がびっしり詰まっています。
「曜日毎に帽子を変えるために7枚持っている患者さんもいます。汗もかくから替えが必要だし、おしゃれを楽しんでいる人もいます」と、白石さん。
「同じ帽子でも、たとえば顎にがんを患っている人のために患部が隠れるように形を工夫したり、患者さんと相談しながら肌着をつくることもあります。すごく安心して過ごせるようになった、と言ってもらえることも少なくありません。」
入院患者さんたちにとっては、病院は治療だけではなく生活のための空間です。東札幌病院では、「いずみ」の存在が、患者さんたちのQOL(クオリティ・オブ・ライフ=生活の質)が高め、治療にもいい影響を与え、ここで人生を終える人たちにとっても充実した時間を提供しているのかもしれません。
なぜボランティアをするのか
「ボランティアを信じることが力になる」と語る白石さん。一方では意欲と責任感も求めています。年3回のボランティア説明会では、「自分自身をわかっている人、他の人と協同で活動に取り組める人」に来てほしいと話します。でも同時に「人は変われる」ということも伝えるそうです。関わってくれるボランティアの人とは面談をし、体験もしてもらいます。約束を守れない人は、お断りをする場合もあります。交通費など報償金も出しません。
厳しい条件のようですが、週1回6時間のボランティア活動には、たとえば仕事がすごく忙しいOLの方が参加しています。ボランティアの方は活動を通じて自己実現し、患者さんやご家族、他のボランティアとの交流を通じて経験を積み重ね、感動を得ています。それが活動を継続する意欲へとつながっているようです。
また、「いずみ」のボランティアには、東札幌病院で治療を受けている患者さんもいます。大切な人を亡くしたという経験がある人、ご自身が以前病気を患っていたとういう方もいます。病気はいつだれがなるかわからないし、ボランティア「する側」と「される側」は、「あたえる」「あたえられる」が固定された関係ではなく、境界があいまいで、交換可能な、相互に支え合う関係なのです。
代表者:荒幡みよこ
連絡先:札幌市白石区東札幌3条3丁目7-35
TEL:011-812-2311 Email:vo-izumi@hsh.or.jp
(連絡責任者:白石典子)


